「トンカン」「ガリゴリ」夜の事務作業を終え、そろそろ帰ろうかという頃になっても階下の工房は賑やかだ。 仕事を終えた若い衆たちが椅子の座面を鉋で彫り込む練習として皿を作っているらしい。 KOMAの製品には俺の「曖昧なニュアンス」が含まれる。 例えば「プクッじゃなくてフワって感じ」とか「シュじゃなくてスゥって感じ」など何とも製品にしづらい感性みたいなものが要求される。 それを刃物で表現していくわけだから一朝一夕でどうにかなる事ではない。 木目を読みながら手の一部のように自在に鉋を操るスキルや刃を研いだり鉋を仕込む技術が必要で、それらをひたすら繰り返した先にようやく感性らしきものが身についていく。 そして、各作業にクオリティとタイムの最低ラインが設けられていて、それをクリアした者しか作業に加わることができない。だから椅子の座面の前にまずは皿を彫って練習しているというわけだ。 それでも出来の良い順にスタメンが決まるから、練習したからといって望んだポジションが与えられる保証はない。年功序列も過去の実績も関係なく、この瞬間に一番結果が出せそうな者が選抜される。 誰かが上がれば誰かが下がるという分かりやすく厳しい世界だ。 そんな一人一人を評価したいところだが、大切なのは結果のみである。 努力なんていうのは不安を軽くするために自分で勝手にすることで、特別に評価されることではない。 しかし、少し視点を変えて「その努力が具体的な形」になれば「対価」は払える。 要するに、練習しながら作品にしちゃえばそれを会社が買い取ればいい。 そして、材料も工房も自由に使えて、自分の作品をお客さんに見て触れてもらえる環境はきっとやり甲斐を感じるだろう。 そうやって始まった若衆作品という制度だが気づけば5年も続いている。 「継続は力なり」の言葉どおり一人一人の個性が表現されるようになってきた。 そして、工房だけでなくショップの若い衆だって負けていない。 「企画から展示する物まで全て若い衆だけのイベントがしたい」と言ってきた。 そしてさらに「今回のイベントへの参加条件は最低50枚の皿を作った人だけ!僕は全力で売るから本気で作れ!工房とショップで勝負しよう!」と工房の若い衆に大見得を切った。 「よっしゃ!やってやろうじゃねえか!」と当然の反応を示す負けず嫌いの面々。 そんなふうにして、若い力が一つになって生まれた作品の数々。 まだ荒削りだけど、その一つ一つの作品は俺の宝物だ。 だって彼らの一歩一歩はKOMAの未来そのものだから。 Written by Shigeki Matsuoka 若い衆器展(sold out)日時:3月17日(金)〜28日(火)場所:KOMA shop※「若い衆器展」は完売となりましたので、3月19日をもって会期終了いたします。 もともと12日間の会期を予定していましたが、おかげさまで3日間で終了となりました。 たくさんのご来場、ありがとうございました!